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2014年4月19日 (土)

第81話:【史佳と沙絵】~その1

★第80話はコチラ

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夏になっていた。史佳は高校に進学して、さいしょの夏休みを迎える。とは言っても、夏休みをどのように過ごすか、なんて通俗的な悩みが浮かぶわけでもない。中学生で過ごした夏休みと、なんら変化はなかった。当たり前のように夏休み用の課題が出され、部活動をし、ときどきに補習を受け、長い盛夏の一ヶ月を送る。

夏休みに突入する直前に、愛実が吹奏楽部に入部した。愛実は、中学の頃にも吹奏楽部に入部していた。高校に進学したら吹奏楽はもうやらない、と愛実は宣言していた。でも、やはり心の中ではやりたかったらしい。史佳は、愛実に「がんばってね」と声をかけた。

愛実が部活動を始めたことで、史佳は愛実と一緒に登下校をすることがなくなった。愛実の入部した吹奏楽部は、朝練もこなす練習熱心な部だった。史佳は、愛実の代わりに誰かと仲良くなる、などということは意識的に避けていた。

史佳は、自分の偏屈で、奇抜な性格を忌み嫌うようになっていた。自身を嫌悪する気持ちは、自然と周囲の者と気安く打ち解けることをも拒絶するようになった。せっかく仲良くなった友人たちと一緒にいるときに、もし自分の激烈な性癖が出現したら…と思うと、史佳はゾッとした。考えただけでも恐ろしい。

史佳にとって、愛実は小学校、中学校といつも親身に関わってきた、親友と呼べる唯一の人間だった。史佳は、愛実の前では自分のことをさらけ出すことができた。そして、愛実も史佳の性格を熟知していたので、うまくフォローし、またはフォローされ、友情を育むことができていた。

一学期の終了式の日に、机の中に押し込んでいた教科書やノートやらを、通学鞄に押し込んで、学校をあとにした。パンパンに膨れあがった学校指定の紺色の通学鞄は、手がしびれるほど重く、乱雑に詰め込んだことが原因なのか、教科書の角張った部分が、鞄の表面を突き破りそうな勢いだった。
鞄の重さからくる疲労と、地面を焦がすほどの陽光が身体を直接照りつけていることで、史佳は帰路につくための駅までの道のりで、完全にバテていた。横断歩道の直前で、信号が変わるのを待っているあいだにも、陽は容赦なく照りつけ、史佳の皮膚を焼き、体内の水分を奪った。鞄をアスファルトに置いた。ゆっくりと置くつもりが、地面すれすれで脱力してしまい、投げ捨てたようになった。ザクッという穴を掘るような鈍い音がして、鞄は落下した。

史佳は、思った。
邪魔だ。この鞄、邪魔。てか中身いらね。

こんな重い荷物を持って帰って、それで夏休みが終わったら、また学校に持って行くことを考えるとうんざりした気持ちになった。教師たちは、夏休み中に講習や、試験会場などで教室を部外者が使用することがあるから、私物はすべて持って帰るように言っていた。教師は「物がなくなった云々の紛失騒ぎを未然に防止するため」という講釈は垂れたけど、「ぜんぶ持って帰るのは、きっと重くて大変ですよ」などという予知はほのめかしもしなかった。バカヤロウ。さいしょに言いやがれ。

史佳は、歩行者用信号機の横で点灯している、信号が変わるまでの残り時間を示したランプを見つめたまま、今から学校に戻って、こっそり教室に鞄の中身を置いて行こうかと考えた。でも、今からまたUターンして学校まで戻るのは、それなりの汗をかいて、逆にイライラするのかもしれない。
部活動をやっている生徒は、きっと自分たちの部室に隠しておくんだろうな、と史佳は思い、チッと舌打ちをした。愛実は吹奏楽部の部室を有効に使っているんだろうな。アタシも置かせてもらおうかな。帰宅部だけど。帰宅部ナメんな。いや、別にナメてないか。くそっ。

もう捨てちゃおうか。向かいにあるツタヤのゴミ箱に。

「あれ?」
声がした。
「史佳ちゃん…だよね」
史佳は声がした方を振り向いた。
「あぁ、やっぱり…こんにちは」
声をかけてきたのは、董馬だった。董馬は白いTシャツと、ショートパンツを着ていた。シャツの胸元は汗でびっしょりと濡れていた。顔と前腕だけが不自然に日に焼けている。ハァハァと荒い呼吸をしていた。
「あれれ?」
董馬は、史佳の顔を覗き込んだ。そして言った。
「なんか怖い顔してるなぁ。そんなに睨まなくても…なんかあったの?」
史佳は、心の中を見透かされた気になって、途端に恥ずかしくなった。

 

(第82話へ続く)

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