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2014年2月26日 (水)

第78話:【美緒と董馬】~その18

★第77話はコチラ

高校生になっても、美緒の自虐的な思考は衰えることがなかった。その日常には、必ずといってよいほどに「死」の匂いがまとわりついていた。美緒は家庭では普通の女子高生を演じていた。それは中学生のときから変わらない習慣だった。家庭でも学校でも、美緒は巷にあふれる少女らと同じように自分という存在が、どんな荒波に揉まれても破壊されることのない不偏な存在であるように努めた。しかし、どんなに家庭で健気なムスメを演じようと、学校で青春を謳歌するティーンエージャーを演じようと、心のどこかで、今そこにある日常が、やがて枯れゆく路傍の花のように、はかなく、痛々しいものとして映っていた。

身体が発育し、少女から女性へと変化する兆しが顕著に現れるようになってから、美緒は自身の裸体を姿鏡の前に映し出すようになった。以前は自宅の玄関に置かれていた姿鏡を、両親にねだって自室へと持ち込んだ。美緒の両親は、美緒の要求を、快諾した。自分の容姿に興味を持ち始める思春期の女の子には当然のものだと解釈したからだ。

美緒は、自室に姿鏡を立てかけると、その前に立った。鏡に映る自分の容姿を、美緒は冷ややかな目で眺めた。鏡に映っている赤星美緒は、生気を失っているように思えた。細い黒髪が寒々しく垂れ、色白で全体的に細い輪郭をしている。まるで灯火が消えた蝋燭のようだと思った。

制服のスカーフを襟元から抜き取った。草が風にそよぐような衣擦れの音がした。スカーフを床に落とした。スカーフは無音のまま絨毯の上に落下した。ブラウスのジッパーを上げ、一気に脱いだ。上半身はブラジャーだけになった。ブラジャーの突起から生み出された影が、みぞおちのあたりに拡がっている。鎖骨とあばら骨が浮かび、全体的にくぼみがある。へその下に生白い産毛が生えているのが見えた。触っても毛が生えている感触はない。スカートのフックを外し、ジッパーをゆっくりと下ろした。なぜかスカートはゆっくりと脱ぎたくなる。

いつものことだった。臀部のあたりまでスカートを落とすと、途端にひんやりとした空気が内股のあいだを通り抜ける。美緒は身震いをする。爪先でスカートを蹴り、横にずらした。下着以外はいっさい纏っていない自分の姿が、鏡の前に映っている。美緒は、背中に両手を持って行き、ブラジャーのホックを器用に外した。熱と汗が混ざったブラジャーが外れると、言いようもない解放感に襲われた。美緒はまた身震いをする。胸は張っていた。触れると痛みが走り、響いた。

最後にパンツを脱ぎ終えると、美緒は姿鏡に近付いた。鏡の中には赤星美緒がいる。それは紛れもない自分。ひとたび制服を身に纏えば、そこら辺の女子と同種である普通の中学生だ。家に帰れば「ただいま」、寝る前には「おやすみ。パパ。ママ」、家を出るときには「いってきます」、教室に入れば「おはよう」、休み時間となれば頭の中でジャニーズの誰々くんの履歴書と、昨日見たテレビ番組のチャプター再生、チャイムが鳴ったら「さようなら」「また明日」「ばいばい」「ばいばい」

でも、そんなノーマルな日常を送る赤星美緒を、鏡の中に閉じ込めることができる。しがらみと建前を纏った自分を捨て、丸裸となった自分を長々と見つめてみる。そうすると、頭の中に、けっして浮かんできてはいけないもの、甦ってはいけない想念がじわじわと、まるで小穴から蛆虫が湧くように這い出てくる。鏡の外の美緒はそれを拒まなかった。

それは、あの担任教師との情事だった。
忘れられない陵辱な事件。
思い出すたびに、美緒の身体は疼いた。

疼きを呼び起こした記憶は、美緒の指先につたわり、やがて自慰へと続いた。
美緒は、鏡の中のもうひとりの自分に見せつけるように、自慰に励んだ。
過去に受けた陵辱を快感へと変化させ、自らの性器を弄んだ。
幾度となく訪れる絶頂の中で、美緒は女体の恐ろしさと、魔物のように巣くっている悪辣な性癖の業深さを知った。

いつものことだった。自慰が終わり、朽ち果てた枝葉のように床に寝そべっていると、途端に涙があふれてきた。誰にも言えない秘密。誰にも言えなかった、あのプールでの出来事。更衣室での陵辱。握らされたペニス。拒めなかったオトコノカラダ

美緒は上半身を起こすと、目の前にある姿鏡を見つめた。鏡の中にいるもうひとりの自分に向かって、美緒は「死ねよ」と言った。もう涙は止まっていた。

 

(第79話へ続く)

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