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2013年12月16日 (月)

第68話:【美緒と董馬】~その8

★第67話はコチラ

雨があがったあとの有楽町の界隈は、吐き気を催すほどの暑さだった。董馬の首や背中に発汗の気持ち悪さがまとわりついた。董馬は足早に横断歩道を渡り、多くの人が往来する歩道を、広場を歩いた。目の前にコンビニが見えた。赤星美緒と別れたコンビニだった。

美緒は、コンビニの前に立っていた。美緒の視線があちらこちらへと泳いでいるのが分かった。朝に董馬と別れたときと同じ、高校の制服を着ていた。その姿は、有楽町という街並みにおいて圧倒的に浮いていた。リクルートスーツ姿の男や女が雑多に往来する中で、制服を着た美緒の存在は異質だった。董馬は、まるで自分の子が公衆の羞恥に晒されているような、保護者めいた気持ちになった。

「あ、こっちこっちー」
美緒はコンビニの前で、董馬に向かって手を振ってきた。午前中の卑猥な遊戯を楽しんでいた少女とは同一人物とは思えないほどの、あどけなく快活な素振りだった。
董馬が近付くと、美緒が嬉しそうに腕を絡めてきた。
「おい! やめろ!」
董馬は、しがみつく美緒の華奢な腕を、あわてて振りほどいた。揺れた美緒の身体からほのかに香がたった。さっき会ったときには匂わなかった。
「赤星美緒」
「あ、名前、覚えててくれたんだ。嬉しい!」
美緒が、キャッと叫んだ。満面の笑みを浮かべている。董馬はかまわず続けた。
「家に帰ったのか? それとも学校に行ったのか?」
「どっていでもないよ」
美緒は、ううん、と首を振った。
「じゃあ、どこで何をしていたんだ?」
「渋谷行ってた?」
「渋谷?」
「うん。ブラブラしてた」
「学校はサボッた…ってことか?」
董馬はため息をついた。美緒は、ウンウン、と首を上下させた。
「どうして、また有楽町に来たんだ? 言っておくが僕はもう、君と遊んでいる暇はないんだ」
「オジサン、仕事間に合ったの?」
「あぁ」
董馬は、ぶっきらぼうに答えた。ひどく喉が渇いている。
「よかった。アタシ一応心配したんだよね。ひょっとしたらアタシが原因で、お仕事に遅刻しちゃったんじゃないか、ってね」
「遅刻はしないが、遅刻しそうになったことは事実だ」
「ごめん」
美緒は、シュンとした顔を見せた。董馬は、やれやれとため息を吐く。
「まぁ遅刻しなかったとか、遅刻したとか、そんなことは結果論だからどっちでもいいんだ。何にせよ、僕の今日のやるべきおことはすべて終わったし、もうあとは帰るだけだから」
「オジサン、家どこ?」
「どこだっていいだろう」
「大丈夫だって。家に遊びに行こうだなんて言わないから」
「当たり前だ」
「どこどこ? ねぇアタシが知っているところ?」
「近くではない」
「そうなの? 都内じゃないってこと?」
「あぁ」董馬はうなずく。
「へぇ、気になるなぁ」
「もう帰りなさい」
「やだね」
美緒は、くすぐったいような笑みを浮かべて董馬の腕をつかんだ。董馬は「こら」と一喝するとまたすぐに美緒の腕を振りほどいた。簡単に外れる、綿毛のような抵抗力だった。
「どこに住んでいるか教えてくれないと…」
「くれないと?」
「大声出しちゃう」
「なに?」
「知ってる、オジサン。ここは有楽町。サラリーマンの街でしょう? こんな街で女子高生が大声をあげたら、きっと何かあったんだ、ってみんな思うよね? それで大声を出した女子高生の腕をつかもうとしているのが、スーツの男だったら…それはそれは大変なことになるんじゃない?」
美緒は、不敵な笑みを浮かべる。董馬に身を寄せてきた。明らかに挑発的な、大人をからかっている態度だった。
「つかんでいるのは、君の方で僕はつかまれている側だ」
「周りの人には、そんなこと分からないって。絶対に女子高生に破廉恥なことをしているオッサンっていう目でみんなが見るから。この街はみんなアタシの味方なの」
そう言って、美緒は笑った。青白かった表情にほんのりと赤みがかかっていた。
「静岡だ」
董馬は観念して言った。
「しずおか? 富士山のあるとこ?」
「そうだ」
「ふーん。え、じゃあ今から静岡に帰るんだ?」
「そういうことになる」
美緒は、ふんふん、とうなずきながら、両手を後ろに組んだまま、何かを点検するように董馬の身体の周りをゆっくりと一周した。董馬は黙って立ち尽くしていた。頭皮に陽光があたり焼けそうに暑かった。

「じゃあさ、アタシ着替えてくるから、帰るまで一緒に遊んでよ!」
「なに?」
董馬が唖然としていると、美緒が弾けたような声で、
「アタシ行きたいことこがあるの!」
と言った。
「行きたいことろって…」
「花やしき!」
美緒が、ふたたび董馬の腕をつかんできた。

行かないって言ったら、大声出しちゃうからね?
そう言って、美緒は小さな舌をペロと出した。

(第69話へ続く)

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