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2013年9月19日 (木)

第56話:【史佳】~その16

★第55話はコチラ

日曜の昼下がり、ランチ時間はとっくに過ぎているものの、店内はうるさいほどに盛況だった。席という席はすべて家族連れやカップルで埋まっている。客のほとんどが県外からの観光客だった。大型連休も終わり、一息ついたように思えるが、霊峰富士が、その勇姿をいよいよ際立たせるようになる、このシーズンこそが、梅雨入り前に富士を一目拝みに来る人たちで賑わう。

国道138号線に乱立する、ファミレスや飲食店は、週末にもなると、行列ができるほどの集客がある。入れ食い状態だった。外から財と余裕を背負ったファミリーカーが、ちゃりちゃりと小銭を道路端に撒き散らしてゆく。ばら撒かれた小銭は遊興費なのだが、拾う者にとっては貴重な生活費や店の運営費として化ける。観光地にとって銭こそが化け物であり、己の存在を示す確固たる証となる。

デニーズの店内は、他の店舗に負けず劣らずの喧噪に包まれていた。禁煙席は、家族連れでほぼ埋まっていた。ほとんどの子どもたちが、大人と大人の間に挟まれてぎゃあぎゃあと鳴いている。ときに怪鳥の断末魔かのようにキエー! と奇声を上げる子どもも居たり、意味なく大声で返事をする子ども、椅子の上に立ったり、パパの肩に這いつくばり、細い四肢をパパの身体に絡ませて、不規則にうごめいている。

蜘蛛のようだった。パパの身体から、触手のような手足がうにょうにょと。パパはずっとケータイを見ている。ママも知らんぷり。上半身に絡みついた子どもは虫虫虫。無視。

「ねぇ、先生」
「え?」
「あれって幸せなの?」
「どれ?」
「ほら、あそこの家族連れ。子どもがバタバタもがいている」
「もがいているんじゃなくて、じゃれてるんだよ」
史佳は、ペンの動きを止めて、二つ向こうのテーブルに座る家族連れを見つめた。手元には、董馬が用意した現代文の問題集が拡げられていた。傍らには、飲みかけで半分ほど残ってるオレンジジュースが置いている。グラスの表面は結露していた。

「幸せだと思うよ」董馬は、アイスコーヒーを啜った。
「どうして?」
「泣いていない」
「え?」
「誰も泣いていないだろう。泣き顔以外は幸せの象徴だ
「それ、マジで言ってるの?」
「そうだけど?」
「ふぅん……」
史佳の瞳は、珍しい物でも見るように好奇心に溢れていた。

「でも、見ていて鬱陶しい。こういうところでバタバタ暴れるのは、お行儀が悪いと思う」
「そうだね」
「子どもだったら何でも許せるの? あんなに無法地帯みたいに騒いで」
まるで、養鶏場の檻だ、と史佳は思った。

「そんなことはないよ。現に史佳ちゃんはまだ子どもじゃないか」
「アタシ?」
「そう」
「15歳は子ども?」
「そうだね」
「それは、アタシ……だから?」
「は?」

アタシが処女だから!?

 

周囲の好奇な視線を感じつつ、董馬はいつになったら勉強してくれるんだ、とガックリとうな垂れ、ふたたび額をテーブルに打ち付けた。

 

(第57話へ続く)

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