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2013年9月 4日 (水)

第54話:【史佳】~その14

★第53話はコチラ

テストが始まった。「はじめ」の号令で、皆が一斉に裏返しにされていたテスト用紙を表にめくるパラッパラッという音が教室内に響いた。教卓の後ろ、黒板を背にしてテストの担当教師が生徒たちに睨みをきかせている。
史佳の前に座る女生徒は、頭を小刻みに揺らせながら、右腕をボタンを連打するように筆記を開始していた。トントンカリカリッ! と、木を小刀で削るような音が史佳の耳をしつこく乱打した。

無言と筆記音で圧迫された教室内で、史佳はひとり惚けていた。まったくテストに身が入らなかった。中間テスト初日の一時限目に組まれた科目は国語の現代文だった。
史佳は、中空に浮いたままの己の意思を懸命に問題用紙に向けた。
そこには、小説の一節が取り上げられていた。太宰治だった。

――――――――――
眼鏡は、お化け。
自分で、いつも自分の眼鏡が厭だと思っているゆえか、目の美しいことが、一ばんいいと思われる。
鼻が無くても、口が隠されていても、目が、その目を見ていると、もっと自分が美しく生きなければと思わせるような目であれば、いいと思っている。
私の目は、ただ大きいだけで、なんにもならない。じっと自分の目を見ていると、がっかりする。
お母さんでさえ、つまらない目だと言っている。こんな目を光の無い目と言うのであろう。たどん、と思うと、がっかりする。
これですからね。ひどいですよ。鏡に向うと、そのたんびに、うるおいのあるいい目になりたいと、つくづく思う。青い湖のような目、青い草原に寝て大空を見ているような目、ときどき雲が流れて写る。鳥の影まで、はっきり写る。美しい目のひととたくさん逢ってみたい。

太宰治『女生徒』
――――――――――

問:このときの主人公が言う「眼鏡は、お化け」とは、どう意味を指すのでしょう。簡潔に答えなさい。

 

 

 

 

知るかっつーの!

思わず声が出た。
「しまった」と思ったときはもう遅かった。教室にいる史佳以外の全員が、彼女に注目していた。教師は、史佳の突然の咆哮に我を失ったのか、口をあんぐり開けたまま、口の端から、よだれを垂れ流していた。

史佳は「す…すみません! 何でもないです! 本当にすみません!」と姿勢を正して、深々と何度も頭を下げた。
全身がカーッと熱くなった。冷や汗と思しき液体が毛根という毛根からあふれて、背中の真ん中がちょっとした泉になった。「サイアク」と史佳は大きなため息を吐いて、ガクッと首を落とした。

こんなに攪乱し、虚ろな心でテストを迎えてしまった原因は、今朝の出来事にあった。
愛実が、あの山下先輩と付き合うことになったという。
つい最近まで、山下先輩の軽々しい素行の噂話で盛り上がっていたはずなのに、いつの間にか二人は接近して仲睦まじくなっている。しかも、史佳のまったく知らないところで。

山下先輩が、どうして自分を呼び出したのか…その理由は、史佳はまだ窺い知れることはなかった。さらに、史佳のメールアドレスを先輩がどこで知り得たのかは全くもって見当がつかないでいた。愛実に聞いても「分からない」とのことだった。

本当にお化けみたいな世界だ。自分の手の届かないところで、色んなものが動いて、自分の生活を少しずつ壊している気がする。

史佳の席は窓際だった。窓の向こう、遠い空は灰色がかってどんよりとしている。完全に葉桜と化した木々が、日差しを浴びて活き活きと呼吸をしている。
よく見ると、空に向いた葉先の山に、小さな粒がいくつも飛来している。「虫?」と史佳は自問した。
蜂が、蝶が、虻が、蝿が、虫が、虫が、虫が、蟲が、蟲が、、、、、、、、、、、、

 

 

 

 

わっからーん!

二度目の咆哮だった。
アタシ、頭がおかしくなったのかぁと思いつつ、史佳は愛実と先輩を別れさせようと決心した。

 

(第55話へ続く)

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