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2013年8月26日 (月)

第51話:【史佳】~その11

★第50話はコチラ

部屋に飾られたプーさんの掛け時計。文字盤にゴシック体で刻印されたアラビア数字「12」のちょうど中央に、長針と短針が重なった。“ポーポー”と鳥の鳴き声を模倣した音が響いた。
どうしてプーさんのキャラ時計なのに、鳥の鳴き声で時刻を知らせようとしたのか、史佳は未だに分からなかった。普通はプーさん自身の肉声なんかを流すものじゃないのか。「12時だよー」みたいに。

どうして鳥の鳴き声なんだ?
どうして熊じゃないんだ?

考え出すと止まらなかった。つい今しがた詰め込んだはずの英単語が、すっぱりと記憶の箱から抜け落ちてゆく。机上の上に置かれたノートや英語の参考書に釘付けだったはずの視線が  、夢遊病のように時計と机上を往復した。

史佳は“ポーポー”という音が鳴り止んだ途端に、椅子を引いてその場に立ち上がった。
集中できない。あの時計がうるさいから集中できないのではない。

時計の中身が気になって集中できない、のだ。

まぶたが蝋を塗ったように固まり、視界が白濁する。世界が歪む。史佳は猛烈に壁掛け時計を分解したい気分になった。
バラバラにしたい。
中身がどうなっているのか知りたい。
ひょっとしたら、本当に鳥が、大きな鳥が、あのプーさんの挿絵の向こう側に隠れているのではないか。
時計に埋め込まれているネジを一本一本外して、長針や短針を自由にさせてあげたい。別に丁重に扱う必要もないか。どうせただの針金細工みたいなものだ。壊れたって構わない。針なんか、そこらへんに投げ捨ててしまえ。

鳥…鳥…いるのかなぁ。いつの間にかシャーペンを、折れそうなほど強く握りしめていた。もちろん折ることはできない。そんな力はない。アタシは非力だから、と史佳は思う。

シャーペン。シャーペンを折ったら、中からまだ未使用の芯が飛び出す。浅黒い光沢を放った、直径0.5ミリの小骨が。無数に。バラバラと。重力に導かれ、バラバラと。

史佳の自室は、白で基調されたシックな装いだった。
ベッドと勉強机、あとはクローゼットがひとつあるだけ。絨毯は敷いておらず、フローリング床が剥き出している。足元には爪先からこぼれ落ちたスリッパが転がっている。

それだけだった。他に何もない。ぬいぐるみも、ジャニーズのポスターも、本棚も、玩具も、メイク道具もない。何も置いていない。スッキリとした部屋だった。閑散として幽寂。部屋全体が野末のようだった。

元々は、色々あった。あったが、史佳がぜんぶ壊したのだ。
気がつくとバラバラにしていた。

くっついているのが許せない。
平然とくっついてるのが気持ち悪い。史佳にとって粘着は恐怖だった。

みんないつかはバラバラになるのに。

 

電話が鳴った。メールだった。
『明日、学校が終わったら会えないかな?』

メールの送り主は山下先輩だった。つい先日、新しい彼女ができたって愛実から聞いたばかりだった。
 

 

(第52話へ続く)

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