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2013年5月12日 (日)

第23話:【史佳】~その3

★第22話はコチラ

「うっそー」
愛実が弾けるような笑顔を見せて、跳ねた。
「うわー! もうサイテー!」
史佳は、横に並んでいる愛実の肩を平手でバン!と打った。愛実は「ごめんごめん」と言って、小さな舌をチロと出した。長い髪が柳のように風になびいて光っている。

「まさか、ここでアイツの名前が出てくるとは思わなかったよ」
史佳の心臓は、ドキドキと鼓動を早めていた。心臓に悪い、と思った。愛実のジョークは心臓に悪い。
愛実のように可愛い女子が、シリアスな顔をして冗談を言ったら、ほとんどの人が本気に捉えてしまうのではないだろうか。逆にいつもヘラヘラとしてる私なんかが、さも本気のように冗談を言っても、最初っから本気とも受け取ってもらえず、むなしい結果に終わりそうだ。

史佳は電車に乗り込んだ。車内には、すでに学生で溢れかえっていた。塊となった学生の集団が、ぺちゃくちゃとおしゃべりに興じてて、車内はうるさかった。
「ふみか、座らないの?」
「いいよ、立ってる」
「いつもだね」
「立ってるの好きなんだ」
「席、空いてるのに?」
「うん。なんか落ち着くんだよね。電車で立ってると」

史佳は、電車に乗車した際の定位置があった。それはドアの真横だった。なぜかドアの真横に立って、車窓から流れる景色を眺めながら、電車の振動に身を任せるのが好きだった。心が落ち着いた。座席に座ってると、何かに拘束されて身動きが取れないような感覚に陥る。
みんなそうじゃないのかな、と疑問に思ったこともあったが、どうやらそんな感情が湧くのは自分だけだということに気付いたので、皆にこの意見を主張するのはやめた。

電車が動き出した。出だしはゆっくりとした速度で、徐々に速度が増してきた。このじわじわと加速し、移りゆく景色のスライドショーが早くめくられていく感覚が、史佳は大好きだった。

「でも、ふみかさぁ…さっきの話じゃないけど、本当に入江くんの告白、断ったの?」
愛実が、長い髪の先端を指先でつまみながら聞いてきた。これは彼女の癖だった。
「うん、断ったよ」
「どうして? 入江くんってさぁ、結構かっこよくない?」
「そうなのかな?」
「そうだよ。あれ? 史佳はそうは思わないの?」

史佳は顔をしかめた。愛実は何でもストレートに質問してくる。たまにこちらが聞いててドキッとするような質問も矢継ぎ早に浴びせてくる。

「試しに付き合ってみる…なんて思わなかったの?」
「試し?」
「そう。とりあえず付き合ってみて、それでやっぱり合わなさそうだったら別れればいいんだから」
「そういうもん?」
「ちがうの?」
「試しって…なんかヤダな」

史佳は、視線を外に向けた。
街並みの向こうに富士山が見えた。富士の頂に傘雲がかかっていた。

(第24話へ続く)

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