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2013年5月14日 (火)

第24話:【史佳】~その4

★第23話はコチラ

登校してすぐに、史佳はクラスメートの女子たちに囲まれた。それもそのはずだった。史佳の髪型が、昨日とは別人のように様変わりしていたからだ。
「めっちゃ、切ったね! どんくらいカットしたの?」
「んーと、30センチくらいだったと思う」
史佳が、そう言うと、女子の群れからきゃあ、という悲鳴じみた喚声があがった。それでも皆が一様に喜色の面を浮かべていた。

退屈な授業が始まる直前ということもあり、生徒たちの心は渇ききっていた。そこに史佳が、長髪をバッサリとカットして教室に現れたのだから、もう堪らない。底辺に沈んでいた女子たちのボルテージは一気に昂ぶった。気にもとめない風に装ってる男子生徒たちも、遠目からチラチラと史佳の様子をうかがっていた。

学生にとって、教室は孤島であり、クラスメートは孤島の住人。閉鎖された空間での他者の変化が気にならないわけがない。

「でも、ふみかは、ショートの方がぜんぜんいいよっ」
「そう?」
皆がウンウンとうなずき「そうそう!」と口を揃えて言う。史佳は、皆が、流れ星を追うように真剣に自分の顔を眺めるので、何だかおでこの辺りがジンジンと熱くなってきた。羞恥の感情はおでこで感知するのかと想像してしまう。

人生ではじめてのショートカットだった。美容院を出たあとに、こんなに頭が軽くなるものかと史佳は心底驚いた。首の後ろがやけに涼しい。髪の毛がすぐ渇く。朝、起き抜けに自分の顔を鏡で見て、別人が鏡の中に映り込んでるような錯覚に陥った。

人って、ちょっとした変化で、こうも一日の始まりが違うんだなぁと、史佳は思った。

「ふみかって、芸能人とかなれそうじゃない?」
「あ! そんな感じ!」
「だよね、だよね!」
女子たちが、色めき立った。調子に乗った軽口だとは承知していても、史佳はさすがに辟易して「いやいやいやいや」と首を横に振った。

「それはない、無理無理」
「分かんないよ。行けるかもよ、AKBのオーディションに送ってみたら?」
「オーディション? 私が?」
「うん、ふみかなら写真選考はパスするよ、絶対!」

何が「絶対」なのか分からないが、史佳は勢いでまくし上げてくる女子たちを両手で制して「もう、いいかげんにして」と吠えた。皆が笑う。楽しそうな笑顔だ。史佳もつられて笑った。予鈴のチャイムが鳴った。教室がざわめく。史佳は自分の席に戻った。窓際の席だった。

窓辺から外の景色を眺めた。二階の教室だった。日は照っているものの、まだ窓を全開にして涼を楽しむ季節でもなかった。
中庭が見えた。中庭を挟んで、真向かいの校舎でも生徒が、次々に教室に吸い込まれていく様子が遠目でも分かった。次第に人影が消滅していく。

目の前をツバメが横切った。史佳は、飛行するツバメを目で追った。
机に横掛けしている通学バッグが細かく振動した。史佳はあわててバッグの中に手を突っ込んで、振動が終わったばかりのケータイを取り出した。

まだ先生は来てない。史佳はケータイ画面を覗き込んだ。
メールを受信していた。そのメールを開いた。

「あ…」
史佳は、メールの内容を読んで、ゴールデンウィークは東京に行こうと決心した。

思いやり集めよう会かぁ…

ツバメはいつの間にか視界から消えていた。

(第25話へ続く)

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