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2013年5月25日 (土)

第29話:【史佳】~その9

★第28話はコチラ

予定してた時間より少し遅れて御殿場駅へ到着した史佳と愛実は、改札を軽快な足どりでくぐると、アウトレット行きのシャトルバスが停車する停留所に向かった。
休日や大型連休などの混雑期には、御殿場市の幹線道路は、アウトレットに向かう県外からの車で大渋滞を巻き起こす。下手をすれば、箱根方面にまで車列は伸びて、つづら折の峠道が車で埋まってしまうこともあった。

そんな大盛況の休日とはうって変わって、平日のアウトレットは閑散としていた。それなりに人出はあるものの、その来客密度は雲泥の差があった。ゆえに、市内に住む住人たちは混雑している休日ではなく、ゆっくりと買い物を回れる平日に行くことを暗黙の了解としている節があった。

シャトルバスが来た。史佳と愛実はバスに乗り込んだ。駅とアウトレットを拠点に運行されているこのバスは無料で乗車できて、車などの足がない者たちにとっては重宝する交通機関だった。

「どう、もう落ち着いた?」
「うん…まなみ、いつもありがとう」
愛実は、ううんと首を振った。そして「いいの」と声をかけた。その声は優しかった。
史佳の手は、愛実の手でしっかりと握られていた。電車の中で、史佳が泣き出したときから、電車を降りてバスに乗るまで、改札をすり抜けるとき以外は、ずっと繋いだままだった。

女子高生ふたりが手を繋いで寄り添ってる姿は、どう思うのだろうと、史佳は考えた。ひょっとしたら仲がよいを通り越して、レズビアンなどと思われるかもしれない。
でも、それでもいいかな、と史佳は思った。錯乱した自分という実体をもたない人間を、すぐそばで真摯に受け止めてくれる愛実に感謝をしていたし、頼りにしていた。

それに、愛実のような美人と一緒に連れ立って登下校したり、遊びに行ける自分が、すごく羨ましく思えた。史佳は自分と、愛実が親密であることは客観的に見て、何のデメリットもないことに気付いていた。

そんなことを考える自分は打算な女だと、史佳は思う。しかし打算で何が悪いとひらきなおる気概もあった。

たった一度の人生じゃん。
自分が頼りたい人は自分で選んで何が悪いの?

 

バスはアウトレットの停留所に到着した。史佳はバスから降りると「わぁ!」と喚声をあげた。
「やっぱり平日は空いてるよね! 来てよかった」
「ホントだぁ」
愛実もあとに続いて、歓喜の声をあげる。山間から射す日差しが心地よかった。風は静かでスカートの下に伸びた白い足をやさしく取り巻いた。

「ねぇ! クレープさいしょに食べに行く?」
「あ、どうしよっか?」
「ちょっとお店見てから、買う?」
「そうだね、うん。そうしよう」

二人は停留所からほど近いGAPの店内に入った。一通りに物色を終わらせると何も買わずに店を出た。
さて、これからクレープ屋に向かおうかと歩き始めたときだった。
愛実のケータイが鳴った。愛実はバッグの中からたくさんのストラップがぶら下がってるケータイを取り出した。
「あ、親からだ」
「ウソ。早く帰って来いって?」
「わかんない。ちょっと待って」
そう言って、愛実は電話をはじめた。

史佳は、あまり聞かない方がいいのかな、と余計な心配をして愛実から一歩後ずさった。視界に植木とベンチが見えた。外国人の観光客が聞き取れない言葉を懸命にまくし立てながら、集団で歩いていた。皆が一様にサングラスをかけていた。

コツン。

史佳の靴に何かが当たった。硬質の感触がした。
足元を見ると、円柱状の骨董めいたものが転がっている。

― 壺? ―

「あ、すみません」

声がした。振り向いた。
視線の先には、男がいた。男はどこか物寂しげな表情を浮かべていた。

(第30話へ続く)

 

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