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2013年4月 5日 (金)

プロローグ【美緒】

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それはいつものことだった。

美緒が、どんなに疲れてバイトを終わらせても、どんなに暇を持て余していても、生理が始まる頃になっても、また終わる頃になっても、自分が生まれてくるずっと前から決められている、そう、人間の種の起源、遺伝子という遺伝子に組み込まれていて、決して逃れることができない必然性で成り立ってる事柄だった。

シャワーの元栓を閉めた。
おそらく明日には生理が来るだろう、と美緒は自分の胸の下部をさすりながら思った。
ホルモンの分泌が盛んになり、乳腺が張った美緒の胸は、風船のようにパンパンに膨らみ、自分で顎を引いて覗き込んでも、弾力に富んでいるその肉厚が、まるで別の意思を持った生き物のように見えた。

美緒は、バスルームの扉を開けて脱衣所に出た。濡れた足でバスマットを踏んだ。湯気が追い風のように美緒の身体を通り抜け、正面に置かれた洗面台の鏡に貼り付いた。曇った鏡の向こうに自分の顔が隠れている。

美緒は、フックに架けられているバスタオルを手に取り、頭を垂れて髪を拭いた。髪先から冷えた水滴がいくつも飛び散った。構わず拭いた。バスマットが置かれていない部分に水滴が落ちて濡れた。
腕を拭いて、胸にそっとタオルをあてた。

「痛っ」

乳首にタオル生地が触れると、刺すような痛みが走った。生理前はいつもこうだった。美緒はため息をつく。何も変わらない。いつものこと。美緒は、ゆっくりとタオルを胸に押し当てた。

何も変わらない。
何も変えられない。
何ひとつ変えることを許されていない。

美緒が、シャワーを浴びてから1時間後。
彼女は、男に抱かれていた。
男は、美緒の彼氏だった。

恋人が、一人暮らしだという環境は、愛を育むにはベストな環境にちがいない。
いつでも二人の時間が過ごせる。
いつでもセックスができる。ヤりたいときにヤれる。

この男もそうだった。
男は、腰を振れば振るだけ二人の愛が深まるものと信じているのか、懸命に尻を振っていた。
電灯を消した薄明かりのワンルーム。点けっぱなしのテレビから漏れる晴天のような光が男の背後を照らし、逆光となって美緒の顔に影を落としていた。バラエティ番組だろうか、お笑い芸人の下品な笑い声が聞こえていた。

同じ大学に通ってるという、さして希少価値も高くない共通点。

たまたまサークルが同じだったという道端に転がる転がる儚い小石のような共通点。

音楽の趣味が合ったという、吹けば消えるような共通点。

恋人さえいれば、人並みな幸せを共有できるという、根拠のない自信。

恋人の部屋に来るのと、セックスをすることがセットになってると気付いたとき、美緒は、「別れよう」と決心した。

赤星美緒。20歳の春のことだった。

(第1話へ続く)

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