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2013年4月 8日 (月)

第1話:【美緒】~その1

※第1話を読む前にプロローグ全3編を読んでおくことをお勧めします。
↓↓↓↓
★プロローグ【美緒】(みお)
★プロローグ【史佳】(ふみか)
★プロローグ【董馬】(とうま)

美緒は、その年の春に大学生になった。

一年の浪人生活を経て大学へ入学した美緒は、現役で合格を果たしている他の同級生たちと馴染めなくなるのが怖くて、いくつかのサークルに加入することにした。友だちづくりと言ってしまえばそれまでだが、同大学に高校時代の同級生や、知己な友人もおらず、入学に際しては心細い一面があった。

美緒は、サークル勧誘のビラやパンフレットを読んだり、校内に貼られているサークル宣伝のポスターを見たりと、色々と吟味するつもりだったが、講義のカリキュラムを組んだり、学校の近くで働けるバイト先を探したりと、意外とサークル選びに気を回す余裕がなくて、だんだんと面倒くさくなっていた。

そんな折に、何度か一緒に講義を受けるようになった生徒と美緒は仲良くなった。
生徒の名前は、菊池沙雪といった。沙雪は、愛知県の岡崎市から上京し、都内で一人暮らしをしながら、大学に通っていた。

「赤星さんは、東京の子?」
「うん。と言っても調布の方だから東京の外れの方だけど」
「そうなんだ。一人暮らし?」
「え」
美緒は首を横に振って、笑った。
「ぜんぜん、実家暮らしだよ。電車で通ってる。新宿で乗り換えるけど、ほとんど一本だし」
「そうなんだ。ごめん私、東京のことまだ分からないから」
「ううん、大丈夫。それより、その赤星って名字で呼ばれるの何だかよそよそしいから、名前で呼んでいいよ」
「あ、そういえばそうだよね。名前はなんて言うの?」
「美緒。赤星美緒」
「みおちゃんかぁ」

美緒は、久しぶりに自己紹介をして新鮮な感動を覚えた。新しい環境での生活が始まったんだなぁと実感できた。胸の奥が高揚して、明るく灯がともり、視界が開けていく気がした。自分のことを隅々まで知ってる仲間と人生を共にする時間もたしかに楽しいけど、自分の存在がまったく知られていない世界で、自分の思うように自分をプレゼンできる喜びも捨てたもんじゃないと思った。

「私も沙雪ちゃんって呼んでいい?」
「ううん、ダメ」
「え?」
「さゆき、でいいよ。呼び捨てでいいよ」
「そうなの?」
「うん、私からしたら、ちゃん付けで呼ばれるのもまだよそよそしいもん。いっそのこと呼び捨てで呼んじゃってよ」
そう言おうと、沙雪は目を瞑った猫のように目を細めて、うふふと笑った。顔が小さい子だなぁと美緒は思った。
「分かった、じゃあ。お互いに呼び捨てで呼ぼうよ」
「うん、いいよ」
美緒と沙雪は、どちらが言い出すわけでもなく、お互いに手を差し出して固い握手をした。美緒が握った沙雪の右手は、今にも折れてしまいそうなほど細かった。

「ねぇ、みお」
「なぁに、さゆき」
二人でケタケタと笑った。教室の中だった。お互いが机から半身に身体を出し、机と机を挟むように握手を交わした。今日の授業はすべて終了していた。さっきまで教室の後ろでガヤガヤと騒いでいた男子生徒たちは、もうとっくに教室を出ていた。教室の中は美緒と沙雪だけだった。
窓にコツンと何かがぶつかった。窓と対面してる沙雪が「あ」と言った。美緒は、窓の方を振り向いた。
黒い小さな物体が、影絵のようにいくつも窓に映っていた。
「ツバメだ!」
美緒は叫んだ。二人は自然と握手を解くと、窓に駆け寄った。美緒は飛び交うツバメを目で追い、窓の外を見上げた。ひさしの裏側に黄土色の塊が見えた。ツバメの巣だった。
沙雪が、きゃあと黄色い声をあげた。
「私、ツバメの巣を見るの初めてかも」
「うっそ!マジで」
「うん。漫画とかテレビだと何度か見たことあるけど、実際に生で見たことなかったんだ」
「へぇ。それって珍しいの…かな?」
「どうだろう? でも、みんなが当たり前に経験してるようで、実は自分だけ経験してないってこと意外とあると思わない?」
「そうなのかな?」
「そうだよ」
「たとえば?」
「うーん、分かんない」
「へ?」
美緒があっけに取られてると、沙雪は「ごめん、思いつき-」と言って声高に笑った。

何だか分かんないけど楽しい。
この子となら友だちになれる、と美緒は確信した。

「ねぇ、さゆきはもうサークルとか決めた?」
「ううん、まだ。みおは?」
「私もまだ。ねぇ一緒にどこかのサークルに入らない?」
「うん、いいよ」

空は澄んで日が暖かかった。ツバメが鳴いた。その声は雛鳥の鳴き声なのか、親鳥の咆哮なのか二人には区別がつかなかった。

美緒が、信二と会う二週間前の出来事だった。

(第2話へ続く)

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